Ford Anglia

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Ford Anglia 1965
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待ち合わせ場所に行くと彼は居なかった。
「はぁ……また遅刻か、ってアタシがついつい早く乗りたくて出ちゃったんだった」。
彼女はクルマに興味があり、思わず出会った車を衝動買い。今日は5年落ちの国産中古車を乗る彼氏とドライブデートの約束をした。
 
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男「ごめん、ごめーん。待った?」
女「もう、遅い! でも今日は許しちゃうもんね!」
男「ていうか、人のクルマのドアを開けて手を乗せていると怒られるよ」。
女「ひっどーい、アタシのクルマよ」。
男「え! これハリーポッターで出たクルマじゃん!!」
男は目を真ん丸にしてあんぐりと口が開き驚いた。
 
 
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男「あ、もちろん俺が運転するんだよね?」
すると彼女は運転席のドアを開け座り込む。
女「だーめ、アタシが運転するの」。
自分が運転するものだと思っていた男は、ただただ立ち尽くす。
女「ねー、早く乗って! もう行きたいの」。
男「乗る前にさ、このクルマ、すごく後ろが特徴的だね」。
女「クリフカットっていうのよ」。
男「クリフカット?」
女「後ろの窓が絶壁の様に切り落とされているデザインのことを言うの。日本ではマツダとトヨタが似たようなデザインであるの」。
 
 
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彼女のペースに乗せられて、渋々ドアを開け助手席に乗り込む。
女「行くわよ?」
眠っていたエンジンを起こすために、シフトノブを握りギアが入っていないこと確認しキーをひねると一発で目覚めた。
vovovovovovo….
男「なかなかいい音がするんだね。速いのかな?」
女「当時としては高性能でレースにも出ていたみたい」。
 
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エンジンパワーは今の軽自動車よりも低いが軽いボディのおかげで力いっぱい走るアングリア。30分ほど走行し、スタート地点へと戻る彼女。
男「それにしても、似合っているね、お前とこのクルマ」。
女「アングリアって言ってよ」。
再び男はポカーンと口をあんぐりとさせた。
女「ほら、その顔、あなたに似ている」。
男「……。バックをするお前、凄く可愛い。」
女「褒めても何もないわよ?」
 
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男「ところで今何時?」
たくさん並んだメーターの中からSMITH(スミス:1850年代に家族で作り上げた時計メーカー)の時計を見る。
 
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男「そろそろ、俺もしてみたいんだ、いいかな?」
女「もう、しかたないわね。あなた旧いクルマに興味なかったんじゃないの?」
女「新しいクルマを運転するあなたに運転できるかな?」
男「できるよ。できるようになる。もう決めたんだ。ところで何年式のクルマ?」
女「ん? なにを? 1965年よ」。
 
 
 
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アングリアを降りて彼と場所を変える彼女は、ちょっとだけ寂しそうな顔をしている。男「49年前か! まだまだこれからだね。(小声で:アレを売って、世話のかかるのが1人と1台か。)俺たちもアングリアと月日を重ねていきたいね」。
女「どうしたの? 急に?」
男「結婚しよう」。
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いろんな過去を持ち、感情の強弱が激しいかもしれない。けれども、苦難を乗り越えればその先に喜びや感動が満ちている。 どんなことがあっても一緒に居たくなる――。 クラシックカーにはそんな要素があるのかもしれない。
あ、このカップル。その後、どうなったのかはご想像にお任せする。でも、この顔を見れば……。
 
 
 
photographer:Masaru Mochida
model:Satomi Machino
writter:yonerth